溶連菌感染症と診断されると、医師から、通常10日間という、比較的長い期間の抗生物質が処方されます。高熱や喉の激痛といったつらい症状は、抗生物質を飲み始めてから2、3日もすれば劇的に改善することがほとんどです。すると、「もうすっかり良くなったから、薬を飲むのはやめてしまおう」と、自己判断で服用を中止してしまう人が、残念ながら少なくありません。しかし、この行為こそが、溶連菌感染症の治療において最も危険で、絶対にやってはいけないことなのです。なぜ、症状が消えた後も、抗生物質を飲み続ける必要があるのでしょうか。その最大の理由は、溶連菌感染症が引き起こす可能性のある、特殊で、かつ重篤な「合併症」を、確実に予防するためです。溶連菌感染症の合併症には、感染の急性期に起こるものと、感染が治まったように見えた後、数週間経ってから時間差で発症してくるものがあります。後者の代表が、「リウマチ熱」と「急性糸球体腎炎」です。リウマチ熱は、溶連菌に対する体の免疫反応が、誤って自分自身の体の組織、特に心臓の弁や関節、神経を攻撃してしまう、自己免疫疾患に似た病態です。心臓に障害が残ると、将来的に「弁膜症」という後遺症を残すことがあります。急性糸球体腎炎は、同じく免疫反応の異常によって、血液を濾過する腎臓の糸球体に、急性の炎症が起こる病気です。血尿や蛋白尿、むくみ、高血圧といった症状が現れ、稀に急性の腎不全に至ることもあります。これらの合併症は、喉にいる溶連菌そのものが、直接心臓や腎臓に感染して起こるわけではありません。生き残った少数の菌に対する、体の「免疫の暴走」が、本当の原因なのです。症状が治まっても、喉の奥には、まだ少数の溶連菌が潜んでいる可能性があります。抗生物質を10日間しっかりと飲み続けることで、これらの菌を完全に体内から除去し、免疫の異常反応が起こるきっかけそのものを、根絶することができるのです。つらい症状を治すためだけでなく、将来の深刻な病気から自分の体を守るために、処方された抗生物質は必ず最後まで飲み切ってください。