甲状腺の病気は、男性よりも女性に、圧倒的に多く見られるという、大きな特徴があります。特に、バセドウ病や橋本病といった、自己免疫性の甲状腺疾患は、男女比が1対5から1対10にもなると言われています。そして、これらの病気が、20代から40代といった、女性のライフイベントが集中する時期に、発症しやすいことも、知られています。そのため、甲状腺の不調が、月経不順や不妊、あるいは更年期障害といった、女性特有の悩みと、深く関わっていることが少なくありません。例えば、「甲状腺機能亢進症(バセドウ病)」では、ホルモンの過剰分泌が、卵巣の働きに影響を及ぼし、月経の量が減ったり、周期が不規則になったり(月経不順)、あるいは、無月経になったりすることがあります。逆に、「甲状腺機能低下症(橋本病)」では、月経の量が多くなり、長引く(過多月経)傾向があります。これらの月経異常は、不妊や流産の原因となることもあり、妊娠を希望する女性にとっては、甲状腺機能を正常に保つことが、非常に重要になります。また、40代後半から50代の女性が経験する、動悸や多汗、イライラ、疲労感といった症状は、一般的に「更年期障害」として片付けられてしまいがちです。しかし、これらの症状は、実は、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の症状と、非常によく似ています。逆に、無気力や倦怠感、気分の落ち込みといった症状は、甲状腺機能低下症とも共通します。更年期だと思い込んでいた不調が、実は、治療可能な甲状腺の病気であった、というケースも、決して珍しくないのです。したがって、月経不順や不妊、あるいは更年期様の症状で、「婦人科」を受診した際に、甲状腺の病気が疑われ、血液検査を勧められることもあります。そして、そこで甲状腺ホルモンの異常が見つかれば、婦人科医は、内分泌内科などの専門医と連携を取りながら、治療を進めていきます。逆に、甲状腺の病気で治療中の女性が、妊娠を希望する場合や、妊娠した場合にも、胎児への影響を考慮した、きめ細やかな薬の調整が必要となるため、産婦人科と内分泌内科との、緊密な連携が不可欠となります。女性の体は、ホルモンの複雑なネットワークで成り立っています。一つの不調の裏に、別の問題が隠れている可能性を、常に視野に入れておくことが大切です。