甲状腺の病気は、ホルモンバランスの異常による全身症状だけでなく、「首の腫れ」や「しこり」といった、局所的な症状として、最初に気づかれることも少なくありません。喉仏の下あたりが、全体的に腫れぼったい、あるいは、片側に、コリコリとしたしこりを触れる。このような症状で、まず相談先として考えられるのが、首から上の領域の専門家である「耳鼻咽喉科」です。耳鼻咽喉科医は、喉頭や咽頭、気管といった、甲状腺の周囲にある臓器の解剖を熟知しており、首の腫れの原因を鑑別診断する上で、重要な役割を果たします。耳鼻咽喉科を受診すると、医師はまず、首の腫れている部分を、注意深く「触診」します。腫れが、甲状腺全体に及んでいるのか(びまん性甲状腺腫)、それとも、限局したしこり(結節性甲状腺腫)なのか。しこりの硬さや、表面の性状、動き具合などを、手で確かめます。そして、診断の鍵となるのが「超音波(エコー)検査」です。エコー検査は、体に全く負担がなく、甲状腺の内部の状態を、リアルタイムで、非常に詳細に観察できる、優れた検査です。この検査によって、腫れが、液体が溜まった「のう胞」なのか、細胞が増殖した「充実性腫瘍」なのか、あるいは、橋本病に見られるような、慢性的な炎症によるものなのかを、見分けることができます。また、しこりの大きさや形、内部の血流の状態などから、そのしこりが、良性である可能性が高いか、あるいは、悪性(甲状腺がん)の可能性を否定できないか、ある程度の評価が可能です。もし、エコー検査で、がんが疑われるような所見が見られた場合は、診断を確定させるために、「穿刺吸引細胞診」という、より精密な検査が行われます。これは、エコーでしこりの位置を確認しながら、非常に細い針をしこりに刺して、中の細胞を少量吸引し、顕微鏡で、がん細胞の有無を調べる検査です。耳鼻咽喉科、特に頭頸部外科を専門とする医師は、この細胞診や、その後の甲状腺がんの手術治療のエキスパートです。このように、首の腫れやしこりを主症状とする場合は、耳鼻咽喉科が、診断から、必要であれば手術治療までを、一貫して担うことができる、頼れる診療科となります。