-
進化する花粉症の最新予防法
毎年、多くの人々を悩ませる国民病、花粉症。その対策も、医療の進歩や、技術の革新と共に、日々進化を続けています。従来のマスクや薬といった基本的な予防策に加えて、近年では、より効果的で、患者さんの負担が少ない、新しい治療法や対策グッズが登場しています。医療機関で行われる治療法として、注目されているのが「レーザー治療」です。これは、アレルギー反応の主戦場である、鼻の粘膜(下鼻甲介)に、レーザーを照射し、粘膜の表面を焼灼(しょうしゃく)することで、アレルギー反応を起こしにくくするという治療法です。鼻づまり(鼻閉)に対する効果が特に高いとされており、一度の治療で、その効果が1~2シーズン持続すると言われています。保険適用で、日帰りで手軽に受けられるため、薬の副作用である眠気を避けたい、受験生やドライバーなどに、特に人気があります。ただし、効果には個人差があり、くしゃみや鼻水に対する効果は、限定的とされています。薬物療法の分野でも、新しい選択肢が増えています。従来の抗ヒスタミン薬などでは、十分に症状がコントロールできない、重症の季節性アレルギー性鼻炎に対しては、「抗IgE抗体薬(商品名:ゾレア)」という、生物学的製剤の注射薬が、保険適用となっています。これは、アレルギー反応の鍵となるIgE抗体の働きを、直接ブロックすることで、症状を強力に抑える治療法です。治療費が高額であることや、投与できる施設が限られているといった課題はありますが、重症患者さんにとっては、大きな希望となっています。また、私たちの日常生活をサポートしてくれる、対策グッズも進化しています。マスクは、単に花粉をブロックするだけでなく、顔との密着性を高めたり、内側に保湿フィルターを備えたりと、高機能化が進んでいます。空気清浄機も、より微細な花粉粒子を捕集できる、高性能なフィルターを搭載したモデルが、次々と登場しています。さらに、現代ならではの予防策として、スマートフォンの「花粉飛散予測アプリ」の活用も欠かせません。GPS機能と連動し、現在地の花粉飛散量を、リアルタイムで、かつピンポイントで確認することができます。これにより、「今日は飛散量が多いから、外出を控えよう」「飛散のピークが過ぎてから、買い物に行こう」といった、より計画的で、賢い予防行動をとることが可能になります。
-
片足だけのむくみ、深部静脈血栓症を疑い血管外科へ
これまでの心臓や腎臓が原因のむくみが、主に「両足」に、左右対称性に現れるのに対し、「片方の足だけ」が、急に、そして異常に、赤みや熱感を伴ってパンパンに腫れあがってきた。このような「片側性」の足のむくみは、全く異なる、そして緊急性の高い病気である「深部静脈血栓症(DVT)」、いわゆる「エコノミークラス症候群」を、強く疑う必要があります。この病気を専門的に診断・治療するのは、「血管外科」または「循環器内科」です。深部静脈血栓症は、足の深い部分にある静脈の中に、血の塊(血栓)ができて、血流が堰き止められてしまう病気です。長時間、同じ姿勢で足を動かさずにいること(飛行機やバスでの長距離移動、長時間のデスクワーク、あるいは手術後の寝たきり状態など)が、発症の大きな引き金となります。足の血流が滞ることで、静脈の血液が固まりやすくなるのです。堰き止められた血液(静脈血)は、行き場を失い、足の組織に漏れ出て、急激な腫れと、鈍い痛みを引き起こします。ふくらはぎを軽く握ると、強い痛みを感じる(ホーマンズ徴候)こともあります。しかし、この病気の本当に恐ろしい点は、足の症状そのものではなく、その先に起こりうる、命に関わる合併症にあります。足の静脈にできた血栓が、何かの拍子に剥がれて、血流に乗り、心臓を通って、肺の動脈に詰まってしまうことがあるのです。これを「急性肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)」と呼びます。肺の血管が詰まると、突然の激しい胸の痛みや、呼吸困難、失神などを引き起こし、最悪の場合は、突然死に至ることもある、極めて危険な状態です。したがって、片足だけの急な腫れと痛みに気づいたら、絶対に自分でマッサージなどをせず、直ちに医療機関を受診してください。診断のためには、「下肢静脈超音波(エコー)検査」が、最も簡単で確実な方法です。この検査で、静脈の中に血栓があるかどうかを、直接確認することができます。治療は、血栓がそれ以上大きくならないように、また新たな血栓ができるのを防ぐために、血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)の投与が、直ちに開始されます。血栓が大きい場合や、肺塞栓症のリスクが高い場合には、カテーテル治療や、血栓溶解療法、フィルター留置術といった、より専門的な治療が必要となることもあります。
-
大人の溶連菌は何科を受診すべきか
突然襲ってくる38度以上の高熱、つばを飲み込むのもつらいほどの喉の激痛、そして体中がきしむような倦怠感。これらの症状が同時に現れたなら、それは単なる風邪ではなく、「溶連菌感染症」かもしれません。この病気は主に子どもの間で流行しますが、大人も決して無関係ではなく、感染すると子ども以上に重い症状に苦しむことが少なくありません。溶連菌感染症は「A群β溶血性連鎖球菌」という細菌が原因であり、放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、早期の診断と適切な治療が不可欠です。では、大人が溶連菌を疑った時、一体何科を受診すればよいのでしょうか。最も一般的な選択肢は二つあります。一つは、かかりつけの「内科」です。内科医は発熱や全身倦怠感といった全身症状を伴う疾患の初期対応に精通しており、総合的な視点から診断と治療を行ってくれます。もう一つの有力な選択肢が、喉の専門家である「耳鼻咽喉科」です。特に、喉の痛みが他の症状に比べて群を抜いて強い場合には、耳鼻咽喉科での専門的な診察と処置が、苦痛を和らげる大きな助けとなります。どちらの科を受診しても、喉の粘液を採取して調べる迅速診断キットによる検査と、原因菌を叩くための抗生物質による基本的な治療は受けられます。重要なのは、自己判断で市販の風邪薬で済ませようとせず、「これはおかしい」と感じたら、速やかにこれらの医療機関のいずれかを受診することです。早期に正しい診断を受け、治療を開始することが、つらい症状からの早期回復と、危険な合併症を予防するための鍵となるのです。
-
花粉症を根本から治す予防的治療
毎年繰り返される、つらい花粉症の症状。マスクやメガネ、そして薬で、その場をしのぐ「対症療法」も重要ですが、「できることなら、このアレルギー体質そのものを、根本から改善したい」と願う人も少なくないでしょう。そんな願いに応えるための治療法として、近年、注目を集めているのが「アレルゲン免疫療法」です。これは、花粉症の原因となっているアレルゲン(スギ花粉など)を、ごく少量から、体に投与し、徐々にその量を増やしていくことで、体をアレルゲンに「慣れ」させ、アレルギー反応そのものを起こしにくくしていく、唯一の根本的な治療法とされています。アレルゲン免疫療法には、現在、主に二つの方法があります。一つは、従来から行われている「皮下免疫療法」です。これは、アレルゲンを含むエキスを、腕の皮下に注射する方法です。治療は、最初は少量・低濃度から始め、徐々に量を増やしていき、維持量に達したら、その後は月に1回程度のペースで、通院して注射を続けます。もう一つが、近年、急速に普及している「舌下免疫療法(ぜっかめんえきりょうほう)」です。これは、アレルゲンを含む治療薬(錠剤または液体)を、毎日、舌の下に1~2分間保持してから、飲み込むという方法です。注射の痛みがなく、自宅で治療を続けられるという手軽さから、多くの患者さんに選ばれるようになっています。現在、日本では、スギ花粉症と、ダニアレルギー性鼻炎に対して、この舌下免疫療法が保険適用となっています。この治療法の最大のメリットは、長期にわたって正しく治療を続けることで、花粉症の症状を、大幅に軽減、あるいは完全に治癒させることが期待できる点です。治療を終了した後も、その効果が長期間持続するとされています。また、将来的に、他のアレルギー疾患を発症するのを予防する効果も報告されています。ただし、この治療法には、いくつかの注意点もあります。まず、治療期間が、3年から5年と、非常に長いことです。根気強く、毎日治療を続ける必要があります。また、治療の開始時期も重要で、スギ花粉症の場合は、花粉が飛んでいない時期(6月~12月頃)から治療を開始しなければなりません。副作用として、口の中のかゆみや腫れ、喉の違和感などが現れることもあります。アレルゲン免疫療法は、花粉症を根本から克服したいと考える人にとっては、大きな希望となる治療法と言えるでしょう。
-
手足口病を疑ったらまず何科?最適な診療科の選び方
夏になると、子どもたちの間で決まって流行する感染症、手足口病。その名の通り、手のひら、足の裏、そして口の中に、特徴的な水ぶくれ(水疱)や発疹が現れる病気です。突然の発熱と共に、痛々しい発疹が全身に広がる様子を見て、多くの保護者の方は、「すぐに病院へ連れて行くべきだけど、一体何科に行けばいいの?」と迷ってしまうことでしょう。特に、皮膚の発疹と口の中の痛みという、複数の領域にまたがる症状が現れるため、その悩みはもっともです。結論から言うと、手足口病の診断と治療において、最も中心的な役割を担う診療科は、子どもの病気の専門家である「小児科」です。手足口病は、主にコクサッキーウイルスやエンテロウイルスといったウイルスによって引き起こされる感染症であり、その患者のほとんどが乳幼児です。小児科医は、手足口病の典型的な症状や経過を熟知しており、似たような症状を示す他の子ども特有の感染症(ヘルパンギーナ、溶連菌感染症、水疱瘡など)との鑑別を、的確に行うことができます。また、子どもの全身状態を評価し、最も注意すべき合併症である脱水症状や、稀な重症例の兆候を早期に見抜くことができます。一方で、大人が感染した場合や、子どもの皮膚症状が特にひどい、あるいは診断がはっきりしない場合には、他の診療科が関わることもあります。例えば、大人の場合は、かかりつけの「内科」が最初の窓口となります。また、皮膚の発疹の診断に特化している「皮膚科」や、口内炎の痛みが極めて強い場合には「耳鼻咽喉科」も選択肢となり得ます。この記事シリーズでは、これらの診療科それぞれの役割と特徴を詳しく解説し、あなたが、あるいはあなたのお子さんが、最適な医療を受けるための手助けをします。