これまでの心臓や腎臓が原因のむくみが、主に「両足」に、左右対称性に現れるのに対し、「片方の足だけ」が、急に、そして異常に、赤みや熱感を伴ってパンパンに腫れあがってきた。このような「片側性」の足のむくみは、全く異なる、そして緊急性の高い病気である「深部静脈血栓症(DVT)」、いわゆる「エコノミークラス症候群」を、強く疑う必要があります。この病気を専門的に診断・治療するのは、「血管外科」または「循環器内科」です。深部静脈血栓症は、足の深い部分にある静脈の中に、血の塊(血栓)ができて、血流が堰き止められてしまう病気です。長時間、同じ姿勢で足を動かさずにいること(飛行機やバスでの長距離移動、長時間のデスクワーク、あるいは手術後の寝たきり状態など)が、発症の大きな引き金となります。足の血流が滞ることで、静脈の血液が固まりやすくなるのです。堰き止められた血液(静脈血)は、行き場を失い、足の組織に漏れ出て、急激な腫れと、鈍い痛みを引き起こします。ふくらはぎを軽く握ると、強い痛みを感じる(ホーマンズ徴候)こともあります。しかし、この病気の本当に恐ろしい点は、足の症状そのものではなく、その先に起こりうる、命に関わる合併症にあります。足の静脈にできた血栓が、何かの拍子に剥がれて、血流に乗り、心臓を通って、肺の動脈に詰まってしまうことがあるのです。これを「急性肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)」と呼びます。肺の血管が詰まると、突然の激しい胸の痛みや、呼吸困難、失神などを引き起こし、最悪の場合は、突然死に至ることもある、極めて危険な状態です。したがって、片足だけの急な腫れと痛みに気づいたら、絶対に自分でマッサージなどをせず、直ちに医療機関を受診してください。診断のためには、「下肢静脈超音波(エコー)検査」が、最も簡単で確実な方法です。この検査で、静脈の中に血栓があるかどうかを、直接確認することができます。治療は、血栓がそれ以上大きくならないように、また新たな血栓ができるのを防ぐために、血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)の投与が、直ちに開始されます。血栓が大きい場合や、肺塞栓症のリスクが高い場合には、カテーテル治療や、血栓溶解療法、フィルター留置術といった、より専門的な治療が必要となることもあります。
片足だけのむくみ、深部静脈血栓症を疑い血管外科へ