コンコン、という乾いた咳から始まり、次第に激しさを増し、夜も眠れないほどのしつこい咳へと変わっていく。マイコプラズマ肺炎と診断された時、多くの人が最も気になるのが、「この、終わりが見えないつらい咳は、一体いつまで続くのだろう」という、切実な疑問でしょう。その答えは、治療の開始時期や、個人の体力、そして合併症の有無によって異なりますが、一般的な経過を知っておくことは、過度な不安を和らげ、安心して治療に専念するために役立ちます。マイコプラズマ感染症の咳には、いくつかの特徴的な段階があります。まず、感染初期には、熱や倦怠感と共に、痰の絡まない「乾いた咳(乾性咳嗽)」が出始めます。この段階で適切な抗菌薬(マクロライド系や、ニューキノロン系など)による治療が開始されれば、咳の症状は比較的速やかに、一週間から十日程度で軽快に向かうことが多いです。しかし、診断が遅れたり、あるいは初期の抗菌薬が効きにくい耐性菌であったりした場合は、咳の症状が長引く傾向にあります。炎症が気管支や肺の奥深くまで広がると、咳はさらに激しくなり、夜間や早朝に、発作のように咳き込むようになります。この時期になると、咳と共に、粘り気のある痰(湿性咳嗽)が出るようになることもあります。この激しい咳のピークは、通常、発症から一週間から二週間程度続きます。そして、適切な治療によって体内の菌が減少し、炎症が治まってくると、咳の頻度や激しさも、徐々に、しかし確実に和らいでいきます。ただし、ここで注意が必要なのが、熱などの他の症状が完全に治まった後も、咳だけが、まるで燃え尽き症候群のように、しばらく残り続けることがある、という点です。これは「感染後咳嗽」と呼ばれ、ウイルスや細菌との戦いでダメージを受けた気道の粘膜が、過敏な状態になっているために起こります。このしつこい咳が、完全に気にならなくなるまでには、時には三週間から、長い人では一ヶ月以上かかることも、決して珍しくありません。つまり、マイコプラズマの咳は、治療が順調に進んだ場合でも、「最低でも二週間、長ければ一ヶ月以上続く可能性のある、しぶとい咳」と、ある程度の覚悟を持って、気長に付き合っていく必要があるのです。