甲状腺の病気の診療において、最も専門性が高い診療科が「内分泌内科」または「代謝・内分泌内科」です。なぜなら、甲状腺は、ホルモンを産生し、血液中に分泌する「内分泌器官」の代表格であり、その機能異常は、まさに内分泌学の専門領域だからです。内分泌内科医は、甲状腺ホルモンの複雑な分泌調節のメカニズムや、それが全身に及ぼす影響、そして、多彩な治療薬の特性や副作用について、深い知識と豊富な臨床経験を持っています。甲状腺の病気には、甲状腺ホルモンが過剰になる「甲状腺機能亢進症(代表例:バセドウ病)」と、逆にホルモンが不足する「甲状腺機能低下症(代表例:橋本病)」という、正反対の状態があります。バセドウ病では、動悸、多汗、体重減少、手の震え、イライラ、眼球突出といった、全身の代謝が異常に活発になる症状が現れます。一方、橋本病では、無気力、倦怠感、むくみ、寒がり、体重増加、便秘といった、代謝が低下する症状が見られます。これらの症状は、非常に多岐にわたり、心臓の病気や、精神的な不調(うつ病や不安障害)、あるいは更年期障害などと、間違われやすいという特徴があります。内分泌内科医は、これらの多彩な症状の中から、甲状腺疾患に特徴的なサインを的確に見出し、鑑別診断を進めることができます。診断のためには、まず「血液検査」で、血液中の甲状腺ホルモン(FT3, FT4)と、脳の下垂体から分泌され、甲状腺をコントロールしている「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」の値を測定します。この3つのホルモンのバランスを見ることで、甲状腺の機能が亢進しているのか、低下しているのかを、正確に判断できます。また、バセドウ病や橋本病は、免疫の異常が原因で起こる「自己免疫疾患」であるため、原因となる自己抗体(TRAb, TPO抗体, Tg抗体など)を測定することも、診断の確定に役立ちます。治療は、バセドウ病であれば、甲状腺ホルモンの産生を抑える薬(抗甲状腺薬)が、橋本病であれば、不足している甲状腺ホルモンを補う薬(レボチロキシン)が、それぞれ用いられます。これらの薬は、効果を見ながら、ミリグラム単位で、きめ細かく量を調整していく必要があり、まさに内分泌内科医の腕の見せ所と言えるでしょう。