私が、自分の花粉症を初めて自覚したのは、大学の卒業を間近に控えた、春のことでした。それまでは、春といえば、心躍る季節でしかなかったのに、その年は、原因不明のくしゃみと、滝のように流れる鼻水、そして、目玉を取り出して洗いたくなるほどの、猛烈なかゆみに、毎日悩まされることになったのです。社会人になってからも、その症状は年々ひどくなる一方で、春の訪れは、私にとって「憂鬱」の代名詞となりました。仕事に集中できず、ティッシュペーパーの箱が、手放せない日々。毎年のように、耳鼻咽喉科で処方される抗ヒスタミン薬を飲むのですが、眠気の副作用で、日中は頭がボーっとしてしまう。そんな対症療法に、限界を感じ始めていました。「何とかして、この状況を変えたい」。そう決意した私は、まず、徹底的なセルフケアから始めることにしました。外出時は、高性能なマスクと、花粉症用のゴーグルを装着。帰宅すれば、玄関前で全身の花粉を払い落とし、すぐにシャワーを浴びる。洗濯物は、絶対に外には干さない。空気清浄機は、24時間フル稼働させました。さらに、食生活も見直しました。腸内環境を整えるという話を聞き、毎朝のヨーグルトを習慣にし、青魚を積極的に食べるようにしました。これらの対策で、症状は、以前よりは少し楽になったような気はしましたが、それでも、薬を手放せるほどではありませんでした。そんな時、かかりつけの医師から提案されたのが、「舌下免疫療法」でした。3年以上、毎日、薬を舌の下で溶かす必要があると聞き、最初は少し躊躇しましたが、「根本から治る可能性がある」という言葉に、私は最後の望みを託すことにしたのです。治療を始めて1年目の春、まだ薬は必要でしたが、症状が明らかに軽いことに気づきました。そして、2年目の春。驚いたことに、私は、ほとんど薬を飲むことなく、シーズンを乗り切ることができたのです。あんなに私を苦しめた、目のかゆみも、くしゃみも、嘘のようです。長年の奮闘の末に、私はようやく、春という季節の、本来の美しさを取り戻すことができました。