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息苦しい時は救急車?コロナ重症化のサイン
新型コロナウイルス感染症は、その多くが軽症または中等症で回復に向かいますが、一部のケースでは、急速に症状が悪化し、命に関わる深刻な肺炎へと進行することがあります。その運命の分かれ目となる、重症化の兆候、すなわち「危険なサイン」を、あなた自身と、あなたの家族が見逃さないことが、何よりも重要です。これから挙げるような症状が見られた場合は、もはや「何科に行こうか」と迷っている時間はありません。それは、一刻も早い医療介入が必要な、緊急事態宣言です。迷わず、すぐに救急車の要請を検討してください。まず、最も警戒すべき、そして最も分かりやすい危険なサインが、「息苦しさ(呼吸困難)」の出現と、その悪化です。具体的には、「少し動いただけでも、肩で息をするほど息が切れる」「安静にしていても、呼吸が速く、浅い」「胸に圧迫感や痛みがあり、深く息を吸い込むことができない」といった症状です。また、客観的な指標として、「パルスオキシメーター」で測定した、血中酸素飽和度(SpO2)の値が「九十三パーセント以下」になった場合も、呼吸状態が悪化している明確な証拠です。次に、脳への酸素供給が不足していることを示す、中枢神経系の症状にも、注意が必要です。「呼びかけに対する反応が鈍い、意識が朦朧としている」「唇や、顔色、爪の色が、紫色や青白くなっている(チアノーゼ)」といった症状は、極めて危険な状態であることを示唆します。また、高齢者の場合は、典型的な呼吸器症状が現れにくく、代わりに「ぐったりとして元気がない」「食事や水分が全く摂れない」「失禁してしまう」といった、全身状態の急激な悪化として、重症化のサインが現れることもあります。これらの危険なサインは、自宅療養中に、患者さん本人だけでなく、同居する家族が、注意深く観察することが重要です。特に、高齢者や、糖尿病、心臓病、慢性呼吸器疾患といった基礎疾患のある方、肥満の方、そして喫煙者の方は、重症化のリスクが高いとされています。もし、これらのサインが一つでも見られた場合は、「もう少し様子を見よう」という判断は、命取りになりかねません。躊躇なく、救急相談窓口(#7119)に電話するか、あるいは直接、一一九番に通報し、専門家の指示を仰いでください。
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私がコロナに感染し発熱外来を受診した話
全ての始まりは、月曜日の朝に感じた、喉の奥の、ほんの些細なイガイガ感でした。その時は、週末の疲れが出たのだろうと、軽く考えていました。しかし、その日の午後、オフィスで仕事をしていると、体の芯から、ゾクゾクとした悪寒が走り始め、関節の節々が、まるで軋むように痛み出したのです。体温を測ると、三十八度二分。これは、ただの風邪ではない。そう直感した私は、早退させてもらい、自宅で抗原検査キットを試しました。結果は、くっきりと浮かび上がった、二本の線。「陽性」でした。頭が真っ白になりました。ついに、自分も感染してしまったのか。これから、どうすればいいのだろう。幸い、私には、近所にかかりつけの内科クリニックがありました。すぐに電話をかけ、陽性であったことと、症状を伝えると、受付の方は、非常に落ち着いた声で、「午後の発熱外来の時間に、来てください。到着したら、中には入らず、クリニックの裏手にある駐車場から、もう一度お電話ください」と、具体的な指示をくれました。その言葉に、私は少しだけ、冷静さを取り戻すことができました。指定された時間、車でクリニックの駐車場に着き、電話をかけると、数分後、完全防備の看護師さんが出てきて、車に乗ったまま、鼻の奥に、あの痛い検査(PCR検査)をしてくれました。そして、医師とは、車の中から、スマートフォンのビデオ通話で診察が行われました。「症状は、今のところ軽症ですね。解熱剤と咳止めを出しておきますから、自宅で安静にして、何か異変があったら、すぐに連絡してください」。その、画面越しの、穏やかで、しかし力強い言葉に、私は心から安堵しました。薬局も、ドライブスルー形式で、車から降りずに薬を受け取ることができました。それからの数日間、私は高熱と、ガラスの破片を飲み込むような喉の痛みに苦しみました。しかし、あの時、最初にパニックにならず、かかりつけ医に電話をし、整備された発熱外来のシステムの中で、スムーズに診察と治療へと繋がれたことが、自宅療養中の、大きな心の支えとなりました。医療従事者の方々が、自らの感染リスクと戦いながら、私たちのために、このような体制を築いてくれている。その事実への感謝の念を、私は決して忘れることはないでしょう。
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まとめ。ひどいむくみで迷ったら、まず内科へ
ひどいむくみという、体からのSOSサインに気づいた時、その原因が多岐にわたるため、どの診療科を受診すべきか迷うのは当然です。ここでは、これまでの内容を総括し、あなたが適切な行動をとるための「思考プロセス」を整理します。**大原則:原因がはっきりしない、ひどいむくみで迷ったら、まずは、全身を総合的に診てくれる「一般内科」または「総合診療科」を受診する。**これが、最も安全で、確実な第一歩です。その上で、伴う症状に注目することで、より専門的な診療科への見当をつけることができます。Step 1:「息切れ」や「呼吸困難」を伴うか?「階段で息が切れる」「横になると咳が出る」といった症状と共に、両足がむくむ場合は、心不全の可能性があります。この場合は、「循環器内科」が専門です。Step 2:「尿の異常」や「顔のむくみ」があるか?「尿が泡立つ(蛋白尿)」「尿の量が減った」といった症状と共に、特に朝、顔やまぶたが腫れぼったい場合は、腎臓病を疑います。この場合は、「腎臓内科」が専門となります。**Step 3:「片足だけ」が急に腫れたか?**左右差が明らかな、片足だけの急激な腫れと痛みは、深部静脈血栓症のサインです。緊急性が高いため、直ちに「血管外科」または「循環器内科」を受診してください。**Step 4:「お腹の張り」や「黄疸」を伴うか?**足のむくみだけでなく、お腹に水が溜まって張っていたり、皮膚や白目が黄色くなったりしている場合は、肝臓病の可能性があります。「消化器内科」や「肝臓内科」が専門です。Step 5:「押してもへこまないむくみ」と「全身の倦怠感」があるか?「異常な寒がり」「体重増加」などを伴う、硬いむくみは、甲状腺機能低下症を疑います。「内分泌内科」または「一般内科」へ相談しましょう。この思考プロセスは、あくまで受診の目安です。最も重要なのは、異常なむくみを放置しないことです。まずは、かかりつけの内科医に相談し、診断への正しい道筋をつけてもらう。それが、あなたの体を守るための、最も賢明な行動と言えるでしょう。
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胃腸の不調、夏の下痢や食欲不振の原因
夏になると、決まって「お腹の調子が悪くなる」という人も、少なくありません。食欲が全く湧かない、あるいは、すぐに下痢をしてしまう。これらの「胃腸の不調」もまた、夏特有の体調不良の、代表的な症状です。その原因は、一つではなく、複数の要因が絡み合って、私たちのデリケートな消化器官を、直撃します。まず、最大の原因が、前述の「自律神経の乱れ」です。胃腸の正常な働き(消化液の分泌や、蠕動運動)は、主に、リラックスしている時に働く「副交感神経」によってコントロールされています。しかし、夏の激しい温度差などで、自律神経のバランスが崩れると、このコントロールが効かなくなり、胃腸の機能が、著しく低下してしまいます。胃の動きが悪くなれば、胃もたれや食欲不振に、腸の動きが異常になれば、下痢や便秘に繋がるのです。次に、「冷たい飲食物の過剰摂取」も、胃腸に直接的なダメージを与えます。冷たいものが、大量に胃腸に流れ込むと、消化管そのものが冷やされ、血行が悪化します。これにより、消化酵素の働きが鈍り、消化不良を引き起こします。消化されなかった食べ物は、腸を刺激し、下痢の原因となります。さらに、夏は「食中毒」のリスクが、一年で最も高い季節です。高温多湿の環境は、サルモネラ菌やカンピロバクターといった、食中毒の原因となる細菌が、増殖するのに最適な条件です。調理した食品の不適切な管理や、バーベキューなどでの加熱不十分な肉の摂取などが、細菌性の胃腸炎を引き起こし、激しい腹痛や下痢、嘔吐、発熱といった症状を招きます。これらの胃腸の不調を防ぐためには、まず、冷たいものの摂りすぎに注意し、意識的に、温かいスープや飲み物を食事に取り入れることが大切です。また、食事は、一度にたくさん食べるのではなく、消化の良いものを、少量ずつ、数回に分けて食べるようにすると、胃腸への負担を減らすことができます。そして、食中毒予防の三原則である「つけない・増やさない・やっつける」を、徹底することが、夏のお腹を守るための、基本中の基本となります。
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足の裏のしびれや灼熱感、糖尿病や脊椎の病気のサイン?
足の裏の痛みが、単純な「痛み」だけでなく、「しびれ」「ジンジンする」「ピリピリする」「灼熱感(焼けるような感じ)」「砂利の上を歩いているような感覚」といった、感覚の異常を伴う場合、それは末梢神経そのものに障害が起きているサインかもしれません。このような症状の原因は、足局所の問題(前述のモートン病など)だけでなく、全身性の病気や、足から離れた腰のあたりの病気が関わっている可能性があり、その場合は「内科(特に糖尿病内科)」や「整形外科」、「脳神経内科」といった診療科との連携が必要になります。最も注意すべき全身性の病気の一つが「糖尿病」です。長期間にわたって血糖値が高い状態が続くと、全身の細い血管や神経がダメージを受けます。これが「糖尿病性神経障害」と呼ばれる合併症で、手足の末端から症状が現れるのが特徴です。初期には、足の裏や指先に、左右対称性のしびれや痛み、感覚の鈍化などが現れます。感覚が鈍くなるため、怪我をしても気づきにくく、そこから細菌感染を起こして足の壊疽(えそ)に繋がる危険性もあるため、早期の血糖コントロールが極めて重要です。治療は、糖尿病内科が中心となり、血糖管理と薬物療法を行います。また、足の裏のしびれや痛みの原因が、実は「腰」にあることも少なくありません。「腰部脊柱管狭窄症」や「腰椎椎間板ヘルニア」といった病気では、腰のあたりで足へ向かう神経の根本が圧迫されます。これにより、お尻から太ももの裏、ふくらはぎ、そして足の裏にかけて、痛みやしびれ(坐骨神経痛)が生じることがあります。特徴的なのは、しばらく歩くと足のしびれや痛みが強くなって歩けなくなり、少し前かがみになって休むとまた歩けるようになる「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」という症状です。この場合は、腰の専門家である整形外科での診察、MRI検査などが必要となります。その他、ビタミンB12欠乏症や、甲状腺機能低下症、あるいは原因不明の末梢神経障害など、様々な内科的疾患が足裏の異常感覚を引き起こすこともあります。原因がはっきりしない足裏のしびれや痛みで悩んでいる場合は、まずかかりつけの内科医や、整形外科に相談し、全身的な視点から原因を探ってもらうことが大切です。
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大人の溶連菌は子どもと違う?症状と注意点
溶連菌感染症は子どもの病気というイメージが強いですが、大人が感染すると、子どもとは少し異なる症状の現れ方をすることがあり、注意が必要です。多くの場合、大人が発症すると、子どもよりも症状が「重症化」しやすい傾向にあります。まず、全身症状が非常に強く出ることが特徴です。突然の38.5度を超える高熱や、インフルエンザと見紛うほどの激しい悪寒、ズキズキとした頭痛、そして体中の関節や筋肉が痛む倦怠感に襲われ、起き上がっているのもつらい、という状態になることが少なくありません。喉の痛みも、単なる痛みというよりは、「カミソリの刃を飲み込むような」と表現されるほどの激痛で、食事や水分摂取が全くできなくなることも珍しくありません。仕事や日常生活に、深刻な支障をきたすケースが多いのです。一方で、子どもによく見られる、診断の手がかりとなる特徴的な随伴症状が「現れにくい」という側面もあります。例えば、舌が赤くブツブツになる「いちご舌」や、体中に細かい赤い発疹が広がる「猩紅熱(しょうこうねつ)」は、大人の場合は、典型的には現れないか、あるいは現れても非常に軽微で、見過ごされてしまうことが多いとされています。このため、喉の所見だけでは、他の細菌性扁桃炎や、アデノウイルスなどによるウイルス性の咽頭炎との鑑別が、より難しくなることがあります。だからこそ、迅速診断キットによる確定診断が、非常に重要になるのです。そして、大人が絶対に忘れてはならない注意点が、合併症のリスクは子どもと全く同じように存在する、ということです。特に、感染から数週間後に発症する可能性がある「急性糸球体腎炎」は、血尿やむくみ、高血圧を引き起こす腎臓の病気です。これを予防するためには、処方された抗生物質を、症状が良くなったからといって自己判断で中断せず、必ず指示された期間、最後まで飲み切ることが、絶対的に必要です。大人の溶連菌感染症は、つらい急性期症状と、見えない合併症のリスクという二つの側面から、軽視することなく、確実な治療が求められる病気なのです。
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顔やまぶたのむくみ、尿の異常があれば「腎臓内科」
朝起きた時に、顔、特に「まぶた」がパンパンに腫れぼったく、むくんでいる。そして、足のむくみもひどく、尿の量が減った、あるいは、尿が異常に泡立つ(蛋白尿)といった症状に気づいたら、それは、血液を濾過して老廃物を排出するフィルターである「腎臓」の機能に、何らかの異常が生じているサインかもしれません。このような症状が見られる場合に、受診すべき専門診療科は「腎臓内科」です。腎臓の主な働きの一つは、体内の水分と塩分(ナトリウム)のバランスを、尿の量を調節することによって、一定に保つことです。しかし、腎臓の機能が低下すると、余分な塩分と水分を、十分に体外へ排出することができなくなり、体内に溜め込んでしまいます。これが、腎臓病によるむくみの基本的なメカニズムです。また、腎臓病の中には、「ネフローゼ症候群」と呼ばれる、腎臓のフィルター機能を持つ「糸球体」という部分に穴が空いてしまい、血液中の大切なタンパク質(特にアルブミン)が、大量に尿中へ漏れ出てしまう病態があります。血液中のアルブミンは、血管内に水分を保持する「膠質浸透圧」という力を生み出しています。このアルブミンが減少すると、血管内の水分が、外の組織へ漏れ出しやすくなり、全身に非常に強いむくみを引き起こします。腎臓病によるむくみの特徴は、心不全と同様に「圧痕性浮腫」であり、比較的、柔らかい組織である、顔やまぶたに、症状が顕著に現れやすいことです。腎臓内科では、まず「尿検査」と「血液検査」を詳細に行います。尿検査では、蛋白尿や血尿の有無とその程度を、血液検査では、腎機能の指標である「血清クレアチニン」や「BUN(尿素窒素)」の値、そして「血清アルブミン」の値を測定します。これらの結果から、腎臓のどの部分に、どのような問題が起きているのかを推測します。原因をさらに詳しく調べるためには、超音波検査やCT検査、そして確定診断のために、腎臓の組織の一部を針で採取して調べる「腎生検」という精密検査が行われることもあります。腎臓病は、「沈黙の臓器」とも言われ、自覚症状が出た時には、すでに病状がかなり進行していることも少なくありません。むくみと尿の異常は、腎臓が発する数少ないSOSサインです。見逃さずに、専門医の診察を受けてください。
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甲状腺機能低下症や栄養失調によるむくみ
これまで述べてきた、心臓、腎臓、肝臓といった主要な臓器に明らかな異常がないにもかかわらず、全身がむくみ、特に顔や手足が腫れぼったい。そして、そのむくみは、指で押しても、あまり跡が残らない(非圧痕性浮腫)のが特徴である。このような場合、甲状腺ホルモンの異常や、栄養状態の問題が、むくみの原因となっている可能性があります。まず、考えられるのが「甲状腺機能低下症」です。これは、首の前側にある甲状腺という臓器から分泌される、体の新陳代謝を活発にする「甲状腺ホルモン」の量が、不足してしまう病気です。甲状腺ホルモンが不足すると、全身の代謝が低下し、皮膚の組織に、ムコ多糖類という、水分を多く引き寄せる物質が過剰に蓄積します。これが、甲状腺機能低下症に特徴的な、硬くて、押してもへこみにくい「粘液水腫(ねんえきすいしゅ)」と呼ばれるむくみの正体です。このむくみは、顔やまぶた、手足だけでなく、舌や喉の粘膜にも起こることがあり、声がかすれたり、ろれつが回りにくくなったりすることもあります。むくみ以外にも、「全身の倦怠感」「異常な寒がり」「体重増加」「便秘」「脱毛」「皮膚の乾燥」といった、全身の代謝低下を示す、多彩な症状を伴うのが特徴です。この病気の診断と治療は、「内分泌内科」または「一般内科」が専門となります。血液検査で、甲状腺ホルモンと、甲状腺を刺激するホルモン(TSH)の値を測定すれば、簡単に診断がつきます。治療は、不足している甲状腺ホルモンを、薬(レボチロキシン)として、毎日服用することで補います。次に、「栄養失調」によるむくみも、特に高齢者や、極端なダイエットをしている人に見られます。これは、食事からのタンパク質の摂取が不足し、血液中の「アルブミン」の濃度が低下することで起こるもので、肝臓病によるむくみと同じメカニズムです(低栄養性浮腫)。この場合は、適切な栄養管理と、原因となっている基礎疾患の治療が重要となり、これも主に内科医が担当します。
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専門は「内分泌内科」、まず相談すべき理由
甲状腺の病気の診療において、最も専門性が高い診療科が「内分泌内科」または「代謝・内分泌内科」です。なぜなら、甲状腺は、ホルモンを産生し、血液中に分泌する「内分泌器官」の代表格であり、その機能異常は、まさに内分泌学の専門領域だからです。内分泌内科医は、甲状腺ホルモンの複雑な分泌調節のメカニズムや、それが全身に及ぼす影響、そして、多彩な治療薬の特性や副作用について、深い知識と豊富な臨床経験を持っています。甲状腺の病気には、甲状腺ホルモンが過剰になる「甲状腺機能亢進症(代表例:バセドウ病)」と、逆にホルモンが不足する「甲状腺機能低下症(代表例:橋本病)」という、正反対の状態があります。バセドウ病では、動悸、多汗、体重減少、手の震え、イライラ、眼球突出といった、全身の代謝が異常に活発になる症状が現れます。一方、橋本病では、無気力、倦怠感、むくみ、寒がり、体重増加、便秘といった、代謝が低下する症状が見られます。これらの症状は、非常に多岐にわたり、心臓の病気や、精神的な不調(うつ病や不安障害)、あるいは更年期障害などと、間違われやすいという特徴があります。内分泌内科医は、これらの多彩な症状の中から、甲状腺疾患に特徴的なサインを的確に見出し、鑑別診断を進めることができます。診断のためには、まず「血液検査」で、血液中の甲状腺ホルモン(FT3, FT4)と、脳の下垂体から分泌され、甲状腺をコントロールしている「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」の値を測定します。この3つのホルモンのバランスを見ることで、甲状腺の機能が亢進しているのか、低下しているのかを、正確に判断できます。また、バセドウ病や橋本病は、免疫の異常が原因で起こる「自己免疫疾患」であるため、原因となる自己抗体(TRAb, TPO抗体, Tg抗体など)を測定することも、診断の確定に役立ちます。治療は、バセドウ病であれば、甲状腺ホルモンの産生を抑える薬(抗甲状腺薬)が、橋本病であれば、不足している甲状腺ホルモンを補う薬(レボチロキシン)が、それぞれ用いられます。これらの薬は、効果を見ながら、ミリグラム単位で、きめ細かく量を調整していく必要があり、まさに内分泌内科医の腕の見せ所と言えるでしょう。
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まず相談すべきは「一般内科・総合診療科」
ひどいむくみで、どの専門科を受診すればよいか全く見当がつかない。そんな時、最初に扉を叩くべき、最も信頼できる相談窓口が「一般内科」または「総合診療科」です。これらの科の医師は、特定の臓器に専門が偏ることなく、全身を総合的に診るトレーニングを積んでいます。むくみという症状の背後には、心臓、腎臓、肝臓、甲状腺、血管、栄養状態など、実に様々な要因が関わっている可能性があるため、この「総合的な視点」こそが、原因を突き止めるための、最初の、そして最も重要なステップとなるのです。一般内科や総合診療科を受診すると、医師はまず、非常に詳細な「問診」から診察を始めます。いつから、体のどこがむくんでいるのか、むくみ以外の症状(息切れ、体重増加、尿の異常、だるさなど)はないか、過去の病歴や、現在服用中の薬、そして食生活や飲酒歴といった、生活習慣に至るまで、詳しく聞き取ります。この問診が、原因を絞り込むための、極めて重要な手がかりとなります。次に、「身体診察」です。医師は、むくんでいる部分を指で押し、その跡がしばらく残るかどうか(圧痕性浮腫)を確認します。これは、心臓や腎臓、肝臓の病気でよく見られる所見です。また、聴診器で心臓や肺の音を聞き、心不全の兆候がないか、首の静脈が張っていないか、腹水が溜まっていないかなどを、注意深く診察します。そして、診断を確定させるために、いくつかの基本的な「検査」が行われます。まず、「血液検査」では、腎臓の機能を示すクレアチニンやBUN、肝臓の機能を示すASTやALT、そして体内のタンパク質の量(特にアルブミン)などを測定します。また、心臓への負担の度合いを示すBNPや、甲状腺ホルモンの値も、重要な指標となります。「尿検査」では、尿中にタンパク質が漏れ出ていないか(蛋白尿)を調べます。これは、腎臓病の重要なサインです。これらの問診、診察、そして基本的な検査結果を総合的に判断し、医師はむくみの原因をある程度推測します。そして、もし心臓病が強く疑われれば「循環器内科」へ、腎臓病が疑われれば「腎臓内科」へ、といったように、最も適切と考えられる専門科への、スムーズな橋渡し(紹介)をしてくれます。何科に行けばいいか迷ったら、まずは内科の専門家に、診断への道筋をつけてもらう。これが、最も賢明で、安全な選択です。