これまで述べてきた、心臓、腎臓、肝臓といった主要な臓器に明らかな異常がないにもかかわらず、全身がむくみ、特に顔や手足が腫れぼったい。そして、そのむくみは、指で押しても、あまり跡が残らない(非圧痕性浮腫)のが特徴である。このような場合、甲状腺ホルモンの異常や、栄養状態の問題が、むくみの原因となっている可能性があります。まず、考えられるのが「甲状腺機能低下症」です。これは、首の前側にある甲状腺という臓器から分泌される、体の新陳代謝を活発にする「甲状腺ホルモン」の量が、不足してしまう病気です。甲状腺ホルモンが不足すると、全身の代謝が低下し、皮膚の組織に、ムコ多糖類という、水分を多く引き寄せる物質が過剰に蓄積します。これが、甲状腺機能低下症に特徴的な、硬くて、押してもへこみにくい「粘液水腫(ねんえきすいしゅ)」と呼ばれるむくみの正体です。このむくみは、顔やまぶた、手足だけでなく、舌や喉の粘膜にも起こることがあり、声がかすれたり、ろれつが回りにくくなったりすることもあります。むくみ以外にも、「全身の倦怠感」「異常な寒がり」「体重増加」「便秘」「脱毛」「皮膚の乾燥」といった、全身の代謝低下を示す、多彩な症状を伴うのが特徴です。この病気の診断と治療は、「内分泌内科」または「一般内科」が専門となります。血液検査で、甲状腺ホルモンと、甲状腺を刺激するホルモン(TSH)の値を測定すれば、簡単に診断がつきます。治療は、不足している甲状腺ホルモンを、薬(レボチロキシン)として、毎日服用することで補います。次に、「栄養失調」によるむくみも、特に高齢者や、極端なダイエットをしている人に見られます。これは、食事からのタンパク質の摂取が不足し、血液中の「アルブミン」の濃度が低下することで起こるもので、肝臓病によるむくみと同じメカニズムです(低栄養性浮腫)。この場合は、適切な栄養管理と、原因となっている基礎疾患の治療が重要となり、これも主に内科医が担当します。