原因が思い当たらない手の震えが続く場合、何かの病気ではないかと不安になりますが、実は日常的に服用している薬が原因となっているケースも少なくありません。薬の副作用による震えは「薬剤性振戦」と呼ばれ、原因となっている薬を中止または変更することで改善する可能性があります。もし手の震えが気になり始めた時期と、新しい薬を飲み始めた時期が重なる場合は、薬の副作用を疑ってみる必要があります。手の震えを引き起こす可能性がある薬は、多岐にわたります。まず代表的なのが、気管支喘息の治療に用いられる気管支拡張薬(β刺激薬)です。吸入薬や貼り薬、内服薬など様々な剤形がありますが、交感神経を刺激する作用があるため、副作用として手の震えや動悸が出ることがあります。また、精神科領域で処方される薬も、震えの原因となりやすいことで知られています。特に、抗うつ薬(SSRIなど)や、統合失調症の治療に用いる抗精神病薬、気分を安定させる気分安定薬(炭酸リチウムなど)は、脳内の神経伝達物質に作用するため、その影響で震えが生じることがあります。パーキンソン病の治療薬も、量を調整する過程で逆に震え(ジスキネジアという不随意運動)を引き起こすことがあります。その他にも、吐き気止めの一部、ステロイド薬、高血圧や不整脈の治療薬の一部、免疫抑制剤など、さまざまな薬が薬剤性振戦の原因となり得ます。重要なのは、自己判断で薬の服用を絶対に中止しないことです。薬を急にやめることで、元の病気が悪化したり、危険な離脱症状が出たりする可能性があります。手の震えが薬の副作用かもしれないと感じたら、まずはその薬を処方した主治医に相談してください。医師は、症状と薬との関連性を評価し、薬の量を減らしたり、震えの副作用が少ない別の薬に変更したりといった対応を検討してくれます。また、複数の診療科から多くの薬を処方されている場合(ポリファーマシー)は、薬同士の相互作用で震えが起きている可能性もあります。お薬手帳を持参して、医師や薬剤師に現在服用中のすべての薬を把握してもらうことが、原因究明の第一歩となります。薬の副作用は誰にでも起こりうるものです。不安な症状があれば、遠慮なく専門家に相談しましょう。