本症例は、三歳児を持つ三十五歳の男性会社員が、家庭内感染によって手足口病を発症し、重症化した経過を辿った事例である。患者は、第一子である長男が手足口病を発症してから三日後、夕方より激しい悪寒と全身の筋肉痛を自覚した。当初、患者は何科を受診すべきか迷い、単なる疲労による発熱と考え市販の解熱剤を服用して経過を観察したが、翌朝には体温が三十九度八分に達し、唾液を飲み込むことさえ困難なほどの咽頭痛が現れたため、当院の内科を受診した。初診時の身体所見では、軟口蓋から扁桃にかけて多数の小水疱と潰瘍を認め、典型的なヘルパンギーナ様の咽頭所見を呈していた。また、受診の数時間後には手のひらと指の側面に、周囲に赤みを伴う水疱性の発疹が出現した。血液検査では、CRP値の上昇と軽度の肝機能数値の変動が認められ、ウイルス感染による全身性の炎症反応が示唆された。患者は、歩行時の足底の痛みにより自力での移動が困難となり、一時的に車椅子を使用する状態となった。当院では、脱水予防のための補液点滴を実施するとともに、粘膜保護剤と鎮痛剤の併用による管理を行った。発症から四日目、熱は平熱に戻ったが、皮膚の痛みはピークに達し、特に指先の水疱は日常生活の微細な動作をすべて制限するほどであった。この段階で、二次感染の予防と皮膚バリアの保護を目的に皮膚科への対診を行い、専門的な外用療法を追加した。発症から七日目、ようやく喉の痛みが消失し、固形物の摂取が可能となった。皮膚の発疹は褐色に変化し、痂皮化が進んだ。本症例において特筆すべきは、発症から二週間後に見られた大規模な落屑である。手のひら全体の皮が剥がれ落ち、新しい皮膚に生え変わるまでにはさらに一週間を要した。本患者は最終的に三週間の療養期間を経て完全な社会復帰を果たしたが、この事例が示すのは、大人の手足口病における受診の重要性と、内科・皮膚科が連携して対応することの有効性である。初期の段階で「何科」という迷いを捨て、迅速に全身管理が可能な内科に繋がったことが、重篤な合併症を防ぐ鍵となったと言える。社会人にとってこれほどのブランクは大きな痛手であるが、医学的な適切な介入なしには、回復はさらに遅れていた可能性が高い。
手足口病を発症した三十代社会人の症例と回復までの軌跡