診察室で多くの大人を診てきた内科医の立場から申し上げますと、近年、大人がヘルパンギーナを発症して駆け込んでくるケースが目に見えて増えています。その多くが、自分の不調を単なる激しい風邪や、最近流行した新型コロナウイルス感染症と勘違いされていますが、喉を拝見した瞬間にヘルパンギーナ特有の所見、すなわち軟口蓋や扁桃周囲に多発する紅斑を伴った小水疱を確認し、診断を下すことになります。大人の診断において難しいのは、初期段階では喉の所見がまだはっきりせず、ただの高熱と倦怠感だけが先行するケースがある点です。しかし、数時間から半日経つと、刺すような喉の痛みが現れ、典型的な臨床像が完成します。私たちが最も警戒するのは、大人のヘルパンギーナにおける重症化と合併症のリスクです。子供に比べて大人は免疫反応が強力であるため、サイトカインストームのような状態に陥りやすく、心臓への負担が大きくなることがあります。心筋炎は非常に稀ではありますが、もし高熱が続いた後に激しい動悸や息切れ、胸の痛みを感じるようであれば、一刻を争う精査が必要です。また、激しい頭痛や嘔吐、項部硬直を伴う場合は、ウイルスが中枢神経を侵す無菌性髄膜炎を疑わなければなりません。これらは生命に関わることもあるため、医師として患者様には「ただの喉の痛み」と思わずに、全身状態を注視するよう厳重に伝えています。また、大人の患者様は仕事への復帰を急がれる傾向がありますが、これにも警鐘を鳴らしています。ヘルパンギーナの原因ウイルスは心身へのダメージが深く、無理をして早期復帰を果たすと、心筋への負担が後から現れたり、慢性的な疲労感が数ヶ月続くといった後遺症のような状態に陥ることもあるからです。治療としては、まずは徹底した痛みのコントロールを目指します。ロキソニンやアセトアミノフェンといった消炎鎮痛剤に加え、口腔内の保護のために粘膜をコーティングするようなトローチやうがい薬を処方しますが、それでも痛みが引かない場合は、点滴による水分補給と栄養管理を検討します。大人のヘルパンギーナは、自分の健康過信を打ち砕くほど過酷なものです。医師を頼る際は、ぜひ「周囲でヘルパンギーナが流行っていないか」という情報を伝えてください。その一言が、迅速かつ正確な診断への大きな手がかりとなります。